ゲストハウスの日常と非日常 ヘルパーさんの役割

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執筆者 安澤真希
所 属かつおゲストハウス

2016/12/14

 

 かつおゲストハウスを運営していると、ゲストさんに「毎日いろいろな人が来て楽しそうですね!」なんてことをよく言われます。言わずもがな、その通り!! それがゲストハウスのいちばん面白いところであり、また醍醐味でもあります。

 行きずりの旅行者同士が、同じ宿を通して「出会い」を楽しむ…、その一晩で仲良くなって一緒に飲みに行ったり、どちらかの予定を変更して一緒に観光したり。同じ出身地であればまた地元で会う約束をしたり、恋が芽生えちゃって延泊したり…♡ 一期一会になったり、ならなかったり。

 そんな光景に毎日触れ合うホスト側の私たちは、本当にいろいろな出会いと別れを見てきたわけであります。

 

 しかし、その出会いの光景になれてしまうと、悪い意味で「仕事の業務」としてゲストさんに接してしまう、もしくはそんな目線で見てしまう、そんなことが、まま起こることがあります…(反省)

 あくまでゲストさんをアテンドすること=本来の仕事であることに変わりはないのですが、それでも一つの業務としてゲストさんと話している、となると、お互いに寂しい気持ちになるし、ましてや楽しいなんて思えるわけがありません。

 ゲストハウスに限らずどんな仕事でもそうですが、この「慣れ」を払拭するのは、そう簡単なことではありません。それが頭の中で十分に理解っていながら、それでもともすれば流れ作業的な、坦々とこなす日々に堕してしまいがちなのは、これも人間の一つの弱さともいえるのかもしれませんね。

 

ディズニーランドのスタッフのように

ディズニーランドのスタッフのように、同じようなセリフを繰り返す日々… 楽しいけど辛い時もある。

 

 

 さて、そんな気持ちや習慣というものに、一つのスパイスを加えてくれるのが、我らが「ヘルパースタッフ」たちの存在。台湾人のミンくんがヘルパースタッフとして宿で働いてくれることになった時期も、先のようなことに私が思い悩み、ちょっとだけナイーブになっていたころでした。

 

 

ヘルパースタッフ

左手がミンくん。2週間ヘルパーとして働いてくれたザッキーとの引き継ぎ。すぐ仲良くなりました。

 

 

 一年間のワーキングホリデーを利用して日本にやってきたミンくん。その最初の滞在先として選んでくれたところが、東京や大阪といったビッグシティではなく、高知のかつおゲストハウスでした。

 初めはつたない日本語で、大丈夫かな? と思わせる節がありましたが、持ち前の爽やかなスマイルと優しさでお客さんからも好感度抜群!! 男女を問わずお客さんからもモテモテで、まさに絵に描いたような好青年という感じでした。

 

 ある日、私は朝の掃除に勤しむミンくんに、宿の業務で大変なことや困ったことはないかそれとなく聞きました。するとミンくんは、

 

「毎日ちがうゲストさんばかり。日本の、高知の生活は楽し過ぎて仕方ないですよ!」

 

 その純真無垢な彼の言葉に私は次に言い出すべき言葉が出ませんでした。と同時に、私自身もたしかに持っていたはずの、忘れかけていた大事な感情がありありと思い出されたのです。それは私が初めて海外に行ったときのことでしたーー

 

楽しい宴会

ミンくんがいる間は毎日こんな楽しい宴会が繰り広げられていました。

 

 

 そうなのです、ミンくんにとって、かつおゲストハウスは「海外」なのです。それもこれから始まる長いワーキングホリデーの「最初の海外」なのです。

 私たちにとっての日常は、彼にとっての非日常なのです。見るもの、聞くもの、食べるもの、感じるものがすべて新鮮で目新しいものばかりなのです。

 それに加え日々変わるゲストさんたち、日本の各地や世界の各地から訪れる多種多様なゲストさんたちを案内したり、一緒にゴハンを食べたり、ときには夜遅くまで語り合ったり、あちこち観光したり。逆の立場で考えると……、いやはや、楽しくないはずがありません!

 

 私にとって宿の運営という「ありきたりの日常」は、ミンくんにとっては「刺激的な非日常の連続」なのです。当たり前が、もはや当たり前ではないのです。

 かくいう私もニュージーランドでワーキングホリデーをしていた頃は、毎日が新鮮で刺激的で、見るもの聞くものすべてに五感が満たされていました。ヘルパーで働いていたころも、仕事が大変だなんて微塵も感じていませんでした。それだけ海外生活での刺激や楽しみの比重が心を占めていたのです。

 

ヒッチハイクで四万十

初めてのヒッチハイクで四万十にも行ったミンくん。四万十町のかっぱバックパッカーズにも泊まってくれました。

 

 

 ミンくんの一言でハッとさせられた私は、改めて自分の心の中で「旅」や「ゲストハウス」にまつわるキーワードを思い浮かべて、客観的にシミュレーションしてみました。

 

……海外旅行、初めての四国、初めての高知、縁もゆかりもない見も知らぬ駅、自然、食、人……。

 

 うん、考えれば考えるほどワクワクしてきますよね…!! ゲストさんの多くがこのワクワク感を抱いて高知に来るんです。そう考えると、一人ひとりのゲストさんをなおざりにするわけにはいかないですよね。

 

こうちまんがフェスティバル

「こうちまんがフェスティバル」。声優オタクのキャロルと一緒に高知の漫画文化も満喫~

 

 

 さて、毎日が同じことの繰り返しだと思っている社会人は、きっと多くいると思います。毎日同じ電車に乗って同じ場所に行って、同じ仕事をこなして……、宿もゲストさんこそ違えど、チェックインや案内事項、朝の掃除など基本的なことはやはり毎日が同じです。いわゆる「ルーティンワーク」です。

 しかし、実は同じ毎日だからこそ、それが習慣であるからこそ瑣末にできないのではないでしょうか。もしも取るに足らない仕事や作業であれば、それは習慣の範疇にすらカテゴライズされず、いつのまにか淘汰されているはずです。私たちが日常の中でそつなく、何気なく行なっていることが、本当はいちばん大事な核のところなのかもしれません。

 

 ゲストハウス運営におけるそれは人々の「出会い」だったり「旅の情報交換」だったり、案内を通して毎日必ず見る光景です。うん、やはりいちばん大事なことだ。そしてそのことに気づかせてくれるのが、原点に立ち返らせてくれるのがスタッフなのです! そういう意味では、人を雇うということは互いに刺激があって大変良いことだと私は思います。

 

朝の掃除

朝の掃除もお部屋のセッティングも大事なお仕事。手伝ってくれてありがとう♡

 

 

 およそ一ヶ月の間、ミンくんは笑顔をたやすことなくサポートしてくれました。次の目的地の大阪へ向かうべく、支度するミンくんに改めて大変だったことや苦い思い出を聞いてみました。

 

「楽しい思い出しかありません! また必ず帰ってきます!」

 

 なんと嬉しいかぎり!! 屈託ない爽やかなミンくんの返答に、つくづく彼をヘルパースタッフに選んでよかったと思いました。そして、ヘルパースタッフがいかに宿にとって大事な存在なのか、ということも思い起こさせてくれました。彼を駅まで見送ったあと、私の目に写るかつおゲストハウスは、どこか違った色彩を帯びているように見えました。

 

 ありがとう、ミンくん!! そしてワーキングホリデーが終わる頃、成長したミンくんにまた会いたいです。

 

 

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