いきものの魅力を伝えることがひとの価値観を変えていく

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執筆者 吉野由起子
所 属一般社団法人MIT

2018/05/30

ワクワクした気持ちでないといい絵が描けない

 
 小さい頃は外で遊ぶのが大嫌いなインドア派でしたが、海に行くと元気な野生児になり一日中磯に潜む習性がありました。
 東京の家から車で1時間ほど。夏になると毎週のように通っていた葉山の海でしおだまりのいきものたちにワクワクしていました。
 当時夢中で描いていた魚はナベカ。黄色くて可憐なヒレとシマシマ模様がかっこいい。図鑑を片手に描写したことがいきものを描くきっかけになりました。

 

ナベカ

ナベカ:WEB魚図鑑より引用

 

 対馬で魚を見ると、当時のワクワク感が蘇ります。見たことのない鮮明な色。形の美しさ。活きのよさ。
 いつも見慣れたお魚でさえ、こんなに大きかったんだ!こんなにきれいだったんだ!と感動しきりです。

 

アジ

アジ:アジの色は1色で表現できない。赤から緑から青…いろいろな色がキラキラしている。

 

メジナ

メジナ:地元ではクロイオ(クロウオ)と呼ばれている。その名の通り黒い魚だが、生きている時は藍色がかった水色をしている。目は透き通る青。

 

釣り

マダイ:鯛は赤。めでたい赤。でもそれは死んだ時の色。春のマダイは白にちかい桜色をしている。私のような初心者でも釣れます(笑)

 

 対馬に来た最初の頃はツシマヤマネコを描くぞー!と意気込んでいたのですが、意外にも描くモチーフとして多かったのが魚。
 調べながら観察して描くスタイルは小さい頃から一緒だな~ 知らないことを知るワクワクがないと絵は描けないものです。

 

アカムツ

アカムツ

 

紅瞳

紅瞳(アカムツ) 鹿見(ししみ)地区にある上県漁業協同組合からのご依頼で作成したアカムツのブランド『紅瞳』ポスター。

 

 アカムツは観察して描いていないとタイのような絵を描いてしまうが、実物を見ると赤!白!とはっきりした色合いが金魚をイメージさせる(笑) ヒレを全部立たせるとめちゃかっこいい。
 別名ノドグロという名前の通り、ノドに漆黒の黒がある。黒い部分は口から少し奥まったところなので、横向きではノドが見えず、斜め上から見るような構図にした。この世で一番美味しいおさかなだと思います。

 

「写実」ってなんだろう

 

 写実イラストの価値が低い日本のイラスト・デザイン業界。イラストだけで食っていくのはほんとうに難しい。厳しい受験戦争に打ち勝ち、倍率の高い(あと学費も高い)美大で写実絵画を学んでも仕事がないのが現実。都会で生きるためには絵を描くことを諦めざるを得ないこともある。何か特技があるかと言ったら写実的な絵が描けることだけだった私は都会で需要がなかった一人でした。

 対馬で島おこし協働隊の活動をしていく中で、本当の魅力を伝えるためには「写実」しかないと思いました。写真では伝えられない魅力を絵にすること。そうして続けていくうちに、対馬ではじめて写実が仕事になってきました。

 

丸ステッカー
丸ステッカー

 

 目を通って手から出た跡が分かる「コテコテした写実」を目指したい。きらめきが描かれた絵は輪郭線だけでもグッと惹きつけられます。そういう血の通った絵を生み出していきたいです。

 

新たないきものたちの魅力を写実したい

 

 先日、仕事で一週間、西表島~沖縄やんばるの取材に行ってきました。全国的に真冬のニュースが流れている中、沖縄ではハイビスカスが咲き、蝶が舞っていました。

 西表島ではイリオモテヤマネコ、やんばるではヤンバルクイナと奇跡的に出会うことができ、沖縄との縁を感じました。

 

西表

西表:西表島にも田んぼがひろがっており、イリオモテヤマネコは時折田んぼを利用してエサを探しているそう。観察ツアーで出会ったヤマネコも田んぼ脇の木の上にいた。

やんばる

やんばる:この大都会のどこにやんばるの森があるのだろう?と思いながら北上すると、野生のヤンバルクイナが住む森が見えてくる。鮮明なヤンバルクイナの写真は保護センターのキョンキョン。朝のうちは松の木の上に寝ている。

 

 世界遺産目前で盛り上がっているかと思いきや、いきものの価値を高めるための活動については数えるほどしかなく、いきものへ還っていくグッズもわずかでした。本当に伝えなくてはならないものは何かを考える中で私たちがやりたいことは何だろうと模索するよい機会となりました。

 イリオモテヤマネコのようなスターだけではなくその場所にしか生息しないマイナーな希少種はたくさんいます。そのいきものたちをモチーフに絵を描いて「いかす」「つたえる」グッズを作りたい。いきもの、自然が好きな人がワクワクするような商品を並べたい。環境に配慮した素材を使い、永く使ってもらえる商品を作りたい。イラストやグッズを通じて情報交換をし、環境を守るお手伝いをしたい。

「いきものの魅力を伝えることでひとの価値観を変えていくような活動をしたい」

 これが今したいことだ!と 気づくことができました。今年の目標は、世界のヤマネコ達やいきものをモチーフに新たなブランドを立ち上げること。イラストやグッズを通じていきものや自然へ興味を持ってもらえたらうれしいです。

 今年の春に、事務所兼ショップがオープンしました。昨年から広げているいきもののグッズ商品をさらにパワーアップしていきたいと思います。

 

新MIT事務所

新MIT事務所:対馬の若手大工さんkiiroさん全面プロデュースによるリノベーション。外装から変えていきます。ワクワクしかない!

家具工房kiiro:ずっと先まで予約で埋まっている大人気家具作家さん。ご夫婦で制作されています。確かな技術とセンスの光る家具。HPも素敵です。

 

写実にこだわった対馬のおさかなシリーズ

 

 釣って食して…対馬で身近に出会えるおさかなたちの魅力をグッズに込めました。下記のサイトで販売中!
通販サイト:「サステナブルショップ・ミット」

 

おさかなシリーズ
対馬のおさかなシリーズ

 

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