隈研吾作「ゆすはら雲の上の図書館」へ遊びに行ってみた~後編~

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執筆者 安澤真希
所 属かつおゲストハウス

2018/08/27

 さて、前回に引き続き、梼原町の「雲の上の図書館」について取り上げたいと思います。そもそもいったいなぜ、梼原町なのか? そしてこれほど立派な図書館の建設に踏み切ったのはなぜなのか? その背景を館長の見目(けんもく)さんに伺ってみましたところ、端的にいえば、発端は「梼原町の過疎化・人口流出をふせぐため」だそうです。もちろん、他にもいろいろ事情がありますが、主要な理由というのはここにあるのだそう。

 

 そもそも梼原町は、人口減に歯止めをかけるため、地道な努力を重ねている町として有名です。その甲斐もあり、2015年4月末には、高知県内の多くの市町村が軒並み人口を減らす中で、唯一前年同時期から、わずか「1人減」にとどめた地域です。その秘密は梼原町ならではの対策にあるのは明白ですが、いったいどんな「ならでは」がひそんでいるのか、興味ありませんか? もう少し掘り下げてみましょう。

 

梼原 ゆすはら

 まず、梼原町に居ること、つまり「定住すること」で受けられる支援制度が豊富にあります。梼原町外の皆さんは、おそらく驚嘆する内容だと思います。

 

●結婚祝福金……結婚祝福金として、商工会商品券5万円/組を支給。

●起業支援……梼原人を元気にする補助金制度。梼原町内で特産品や、人材育成事業等のために実施する学習や研修・研究活動事業に開発に対して支援。

●福祉医療助成制度……0歳~15歳(中学卒業)までの医療費が無料です。

●誕生祝福金……梼原町の住民基本台帳に登録され、出産日の3ヶ月前から梼原町に住所を有する人で、将来も引き続き町内に居住予定する母が出産した子供に贈られます。新生児一人につき10万円。

●梼原こども園/幼保連携教育……保育料・幼稚園授業料・給食費が無料です。

●梼原高等学校/海外留学の支援……長期:海外留学補助事業(1年間/半年間)100万円×2名(年間)、短期:海外への生徒の派遣(1週間)10万円×2名(年間)

●その他……入寮助成金、住宅支援、子育て支援etc…。

 

 どうですか? この支援の数々。ほかにも移住者用住宅のリフォームや、若者定住住宅補助など、とにかく町をあげての支援の輪と熱がすごすぎる! 私の住む高知市ではちょっと考えられない充実ぶりです。梼原に暮らしているだけでこれほどの支援が受けられるわけですから、町民はもちろんのこと、移住希望の人も住むことへのハードルが低くなり、結果として定住が“成功”しやすいんですね~。

 さらに、この支援制度のほかにも、注目を集める梼原の取り組みがあります。それは、地元の森林資源等を利用した再生エネルギー。「生き物にやさしい低炭素なまちづくり」をかねてから掲げている梼原は、その一環として森林資源の循環モデル事業を展開しています。温室ガス排出量70%削減、および地域資源利用によるエネルギー自給率100%超えを、2050年までに達成することを目標としています。

 たとえば、風力発電による利益は、搬出間伐を行った森林所有者に交付金として交付したり、あるいは公共施設への太陽光発電に。町産材の木は、学校や街路灯、庁舎などに。地域の資源を最大限に生かし、それをきちんと町で循環させる―。その方針や取り組み方は、他の自治体からも注目されるようになり、いまとなっては「環境モデル都市」としても、多くの団体や自治体が視察に訪れるほどなのです。

 

雲の上の図書館 木材

図書館の木材は、外装も内装も、そのほとんどが梼原町産なのです。

 

 そして梼原は、福祉と教育に特に力を入れている町なのだそう。この「雲の上の図書館」も、その二つの一環として、先代の矢野町長の念願あっての実現だったそうで、町長みずからが、ことあるごとに地域や集落を回り、ときには会合し、図書館の新設についての対話を住民と進めていたのだとか。すごい努力ですね! 「梼原で過ごす選択をしてほしい」という町長の願いと、町民の後押しがあってこそ実現できた図書館なのですね~。そして気になる建設にあたっての財源は、主に過疎債や町の財源などを使っているそうです。

 

 さて、過疎化が進む地域の多いなかで、なぜ梼原だけはこのようなまちづくりが次々と実現できるのか。梼原ならではの取り組みが功を奏したことも去ることながら、他の地域と大きく違う点があるような気がします。それは、公共に属する人も地域住民も「まちぐるみ」という意識が強いということ。言い換えれば、地元意識が強いということですね。人口流出に歯止めがかかった大きな理由も、そもそも根底にこの意識があってこそのもの。人口も少なく、保幼小中高の一貫教育が見通しとしてある梼原では、そうした意識が高まるのも自然な気がしますが、そのつながりを保持・推進するコミュニティが、フォーマットとしてきちんと整っているんです。

 

 そして、それを後押しする、さらには未来に向けて構築する事業・行政。そのコミュニティの循環が、梼原に大きな景気と資源をもたらしているのではないでしょうか。雲の上の図書館も、梼原が力を入れている教育、福祉の支援体制の延長線上に出来たもの。つまり、梼原町でなければ実現できなかった図書館だともいえるのです。県境という不便な立地条件など関係なしに、地域や行政とのつながりとはかくあるべし、という見本のような町なのです。

 

雲の上の図書館 看板

複合福祉施設「YURURIゆすはら」と隣接している点も、きちんと地域社会が考えられています。

 

 あ、ちなみにですが、梼原町外の人も図書カード、作れますので、ぜひお知りおきを。そして梼原にお立ち寄りのさいは、ぜひ実際に訪れてみてください。隈研吾さんの建築に興味ある人も、本に興味ある人も、きっと時間を忘れて楽しめる空間ですよ~。

 

雲の上の図書館 外装

 

ゆすはら雲の上の図書館

【住所】785-1610 高知県高岡郡梼原町梼原1212-2

【TEL・FAX】0889-65-1900・0889-65-1901

【開館時間】10:00~21:00

【休館日】毎週火曜日、資料整理日(毎月最終金曜日)、蔵書点検日(年度末5日間)

【利用者登録ができる方】
◎梼原町に在住、在学、在勤の方。
◎小学生未満のお子様の場合は保護者の同伴が必要。
◎高知県内、愛媛県内全域の住民の方は登録可能。
◎梼原町出身者で、進学や就職等で町に在住し、梼原町に家族、親類が在住する等のつながりを持つ方の場合、登録が可能。
◎観光客の方は、基本的に館内資料閲覧のみ。ホテル等で利用するため、一時的に資料を貸し出しすることができる仮利用者カードを発行することが可能。(身分証の提示が必要)

 

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