グッドデザイン・ベスト100受賞!十日町市民の活動・交流の場「分じろう」「十じろう」設計者に聞く!!
- 執筆者 福嶋美佳
- 所 属
2017/07/25
こんにちは。NPO法人地域おこし 福島です。
十日町の中心地には、「分じろう」「十じろう」という「え?それって人の名前?」と一瞬思ってしまう、ヘンテコな名前の建物があります。
「分じろう」は「地域の人と地域外の人の交流の場」、「十じろう」は「地元の人の活動の場」のための施設です。この二つの施設の設計を行ったのは、青木淳建築計画事務所の竹内吉彦さん(写真左)と笹田侑志さん(写真右)です。
その設計の手法が、業界の中でも珍しいと大変注目されているそうです。
竹内さんと笹田さんは十日町に長期間住み込み、2人の事務所は「ブンシツ」と親しまれました。「ブンシツ」に訪れる人との会話から設計のアイディアをもらったり、「ブンシツ」から発生した活動が「分じろう」「十じろう」に引き継がれたり…。
「ブンシツ」と「ブンシツ」に集う人たちが結成した「十日町まちなかステージ応援団」の活動が評価され、2016年のグッドデザイン・ベスト100に選ばれました。
(グッドデザイン賞HP)
両施設がオープン前の、竹内さんと笹田さんのインタビューをご紹介したいと思います!(インタビューは、2016年1月に行いました)
「ブンシツ」の様子。「分じろう」の脇道を入った空き地に構えていた(現在は撤収されています)。
竹内さんと笹田さんは、2014年7月に十日町にやってきた。それまでは「大地の芸術祭」の存在などは知っていても、十日町のことはよく知らなかったという。
「十日町にやって来て最初に感じたのは、『行事が多すぎる』(笑)。ちょうど来たのが夏だったので、色んなところで花火をやっていました。でも見に行きたくても、どこでやっているかなどの情報をどう得たらいいか分からなくて。花火に限らず楽しそうなイベントは多いのに、その情報を統括して見れるところがなくて、不思議な町だなぁと感じました」
と、竹内さん。これには笹田さんも大きく頷き、
「週末に複数の予定を掛け持ちしている人までいますよね。午前中はイベント、午後は町内の行事に出て夜は会合があって…とか」。
確かに、市民からも「十日町はイベントが多い」という声をよく聞く。市としての行事が多いだけでなく、夏のお祭りや小正月行事、道普請などの各町内の季節行事、さらにはフリーマーケットやワークショップなど小規模のイベントも非常に多い。それだけ市民活動が活発だということだろう。
そしてまさしくお2人が設計する新拠点も、その市民活動を後押しする場所となる。
十日町市市民交流センター「分じろう」(十日町HPより)
十日町市市民活動センター「十じろう」(十日町HPより)
十日町にやってきた竹内さんと笹田さんは、まず高田町の空き店舗を借り「青木淳建築計画事務所十日町分室」を設置。設計士が現地に常駐するのは工事が始まってからのことが多く、お2人のように設計段階から現地常駐するのは設計業界全体を見ても珍しいそうだ。
「普通に設計をしていると、自分や事務所から出たアイディアしか設計に反映されません。現地に常駐して地元の方の意見や要望を聞いていると、色んな人からのアイディアを設計に入れることができます。『分じろう』内に移築する茶室も、常駐していたからこそ取り入れることができたアイディア。東京の事務所にいたら、きっとその話を耳にすることもなかったでしょうからね」(竹内さん)
「分じろう」内に移築された茶室
商店街に構えた「分室」には、新施設の要望を伝える人だけでなく大勢の人が訪れるようになり、いつしか2人の予期しない方向に転がっていく。
「分室の机や椅子は、僕たちが作ったもの。大工の経験はないから椅子とかぐらついていたけど、自分が座る分には問題ないからそのままにしていました。分室を開放し色んな人が出入りするようになったら、足が悪い人から苦情が出て。『自分が座るには問題ないし、ロッキングチェアみたいでいいじゃないですか』って言ったら、怒られてしまいました。
その人とはそれがきっかけで仲良くなったんですけど、自分たちのプライベートな空間のつもりだった分室が公な空間になって、ちゃんと作んないといけないんだなって身にしみた出来事でした」(笹田さん)
「2014年11月から2015年7月まで一旦東京に戻って仕事をしている間も、分室は開放して使ってもらっていました。するとどんどんカスタマイズされていって、打ち合わせでこちらに戻ってくるたびに様子が変わっていくのに非常に驚きました。ダンス部が立ち上がったり、まさかそんな使い方をするとは、と(笑)。」(竹内さん)
高田町のブンシツ(2015年6月末に閉室)
「分室」は2人の事務所としての役割を越えて、地域コミュニティの拠点として歩き出し始めた。カタカナ表記の「ブンシツ」として、市民に活用されるようになっていく。
「自由に使えるハコがあって出入りする人が増えると、こんな風になるんだと感じましたね。『分じろう』『十じろう』もその延長線上で使ってもらいたい。なので、あえて余白をもったような造りにしてカスタマイズできるようにしました」(笹田さん)
使い方の自由度が高い分、オープンした後使い方が分からなくならないよう「日曜大工教室」というワークショップを開催し地域の人に関わってもらう工夫もした。施設をどうカスタマイズしたらいいかあらかじめ地域の人たちと考え、実際に施設に設置することを想定しながら備品などを作った。
「関わる皆さんはみんな行事慣れしていて、段取りもいいし動ける人が多い。僕たちの設計活動以外のすべてをサポートしてくれるスーパーウーマンなご近所さんがいて、ワークショップについて相談を持ちかけるとアドバイスをくれたり、ビラをまいて告知してくれたり、非常に助かりました。地元の建築家の方からは、人を紹介してもらったり雪に対する設計を教えてもらったりもしました。そういう人がいたからこそ、できたことが多いと思います。」(笹田さん)
ワークショップで作られた泥だんごで囲まれた、文化歴史コーナー
想像だけでかっこよくデザインされた施設では、もしかしたら実情に合わず使い勝手が悪いかもしれない。そうすると、せっかくの施設も使い続けてもらえない。
竹内さんと笹田さんはそうではなく、使う人の声にとことん耳を傾け要望をとりいれた。そして、「ブンシツ」で発生した地域活動は上手に「分じろう」「十じろう」に引き継がれている。
予期せぬ変化を楽しめるお2人のしなやかさ、市民活動への温かい眼差しが、新しい施設の隅々まで行き渡っているからこそではないだろうか。
青木淳建築事務所十日町分室は2016年3月いっぱいで区切りを迎えた。その後の十日町との関わりをお二人に尋ねると、こう答えてくれた。
「今後も事あるごとにやってきて、施設がどんな風になっているか観察したいですね。どう使われるかとても楽しみです。」(笹田さん)
「青木淳建築計画事務所は、4年で卒業するという変わったシステムを採用しています。僕たちはあと2年で卒業。独立した後も十日町とは関わっていきたい。今回、十日町と東京を見比べ経験する生活をしてみて、とても面白かったです。今後もそういう仕事の仕方、生き方をしてみたいですね。」(竹内さん)
新施設の今後は十日町の皆さんにお任せします、自由に使ってください、と笑ってしめくくった竹内さんと笹田さん。
2016年春にオープンした「分じろう」と「十じろう」は、十日町にすっかり馴染んだお2人のように、市民の活動や交流の場所として愛されている。
毎月10日に「分じろう」で「とおか市」が開催。
近くの飲食店が「分じろう」に出張オープンすることも。
「十じろう」の1階ギャラリーでは、市民による展示が開催される。